スポーツAIカメラを導入する目的は、実にさまざまです。そして、この「目的」を意識しているかどうかは、製品選びに大きく影響します。同じスポーツAIカメラでも、得意なことは製品ごとに異なるため、何のために使うのかがあいまいなまま選んでしまうと、「撮れたけれど、やりたかったことには使えなかった」というミスマッチが起こりがちです。
とはいえ、最初からすべての目的を見据えている必要はありません。まだ試合をまったく撮影していない多くのチームにとって、第一歩はまず「記録」です。その先の活用がなければ導入できない、というものではありません。ここでは、もっとも基本的な「記録」から始めて、その先に広がるさまざまな目的を順に見ていきます。後半に進むほど踏み込んだ用途になりますが、そのすべてが必要になるわけではなく、必要になったときに検討すれば十分です。
記録として残す
まず出発点となるのが、試合や練習を「記録」として残すことです。その後の細かな活用までは考えず、ただ映像として残しておきたい、思い出として手元に置いておきたい、というニーズがこれにあたります。
現在のスポーツAIカメラであれば、こうしたニーズはおおむねどの製品でも満たせます。設置して録画を始めれば、あとはプレーを追った映像が自動でできあがるため、撮影の手間はほとんどかかりません。まずはここから始めて、使いながら次の目的を考えていく、という進め方でまったく問題ありません。
ただし、完璧ではない点には留意が必要です。AIも万能ではなく、誤認識によって、追ってほしかったシーンを見失ってしまうことがあります。また現状では、映像はピッチサイドから俯瞰したものが基本となり、テレビ中継のような選手の顔のアップや多彩なカット割りは撮影できないという制約もあります。「記録が残せれば十分」という目的であっても、どんな見え方の映像になるのかは、あらかじめ把握しておくとよいでしょう。
試合を分析する
残した映像を一歩進めて使うのが「分析」です。試合映像からは、得点だけでなく、シュート数やポゼッション、パス数といったさまざまな統計を導き出すことができます。分析と一口に言っても、そのねらいはいくつかの層に分かれます。
ゲーム分析は、ひとつの試合について統計を取得することです。その試合で何が起きたのかを、数値で客観的に振り返ります。こうした指標は映像を見ながら手作業でカウントすることも可能ですが、サービスと一体になったスポーツAIカメラの中には、その集計をAIが自動で行ってくれるものもあります。すでに手作業で分析を行っているチームであれば、大きな省力化が期待できるでしょう。その場合、自分たちが必要としている指標がそのサービスに含まれているか、事前の確認は欠かせません。
チーム分析は、そうした試合ごとのデータを積み重ね、チーム単位で時系列に見ていくことです。1試合だけでは見えてこない傾向や成長、課題の変化を、シーズンを通してとらえられるようになります。これも、チームでの利用を前提として、サービスと一体となったスポーツAIカメラの中には、自動的に集計してくれるものもあります。
個人分析は、選手一人ひとりのパフォーマンスに目を向けるものです。ここには、走行距離やスピードといったフィジカルデータの取得も含まれます。こうしたデータは、かつてはウェアラブル機器が必要でしたが、映像だけで計測できる製品も登場しています。ただし、対応競技や取得できる指標には製品ごとの差があります。
なお、分析にあたっては、専用の分析ソフトを併用するという選択肢もあります。その場合に注意したいのが、分析に適した映像を手元に入手できるかという点です。クラウドで処理するサービスでは、すべての映像を自由にダウンロードできるとは限らず、手元に残せる映像に制限があることもあります。分析ソフトとの併用を前提とするなら、この点は必ず確認しておきたいところです。
ここまでの分析は、いずれも自チームの映像を対象とするものでした。これに対し、対戦相手を対象とする「スカウティング」という用途もあります。ただし現状では、対戦相手の分析はプロチーム向けのサービスやプラットフォームで提供されているのが中心で、対戦相手が流動的なことも多いアマチュア向けには、まだほとんど提供されていないのが実状です。
ライブ配信する
試合映像をその場で配信する「ライブ配信」も、多くのスポーツAIカメラが機能として備えています。遠方に住む家族に試合を届けたり、会場に来られないファンに向けて発信したりと、活用の幅は広く、チームの収益にもつながりうる機能です。
ただし、ライブ配信を行うためには、試合映像を送るためのインターネット回戦が必要です。その通信手段には、携帯電話回線やWi-Fiなどがあります。スポーツAIカメラがどのような通信手段に対応しているかは、確認しておく必要があるでしょう。また、試合会場によっては、こうした通信手段が利用できない場合もあるため、複数の対策を検討しておく必要もあります。
また、すでにライブ配信を実施しているようであれば、導入している配信の仕組みとスポーツAIカメラの配信機能が併用できるかを確認しておくとよいでしょう。
ライブ配信は、チーム関係者への共有だけでなく、視聴者への課金や、クラブの有料会員だけへの限定配信などを通じてチーム・クラブの収益化やエンゲージメントを高めるツールとして期待できるサービスです。ただし、こうした仕組みを、自前のプラットフォームとして提供している製品は、今のところ見当たりません。多くはYouTubeなどへの配信を可能にすることで、課金や会員管理といった仕組みはYouTube側に任せているのが実状です。収益化まで視野に入れるなら、どの配信先に対応しているかが判断材料になります。
撮った映像を活用する
記録・分析とは別に、残した映像を「見せる」「共有する」こと自体を目的とするのが「活用」です。ここは、共有する相手によって大きく2つに分けて考えると整理しやすくなります。
ひとつはチーム内での共有です。撮った映像を選手やスタッフの間で見返し、情報共有や振り返りに役立てるものです。自分のプレーを客観的に見ることは、選手自身の気づきや成長にもつながります。
また、それらの映像から何を重視するか、何を課題として選手にフィードバックするかは、指導者の重要な役割です。そのサポートツールとして、何ができるかという点を確認しておくことは大事でしょう。
もうひとつはチーム外への共有です。チームやクラブの認知向上、選手・スタッフの募集、ファンの獲得などを目的に、映像を外へ向けて発信していく使い方です。この場合、SNSをはじめとするさまざまな媒体に載せる素材として映像を使えるかどうかが、ひとつの観点になります。製品によっては、ハイライトの自動生成や、特定選手のプレー抽出、チームロゴやスポンサーロゴを載せた映像の書き出しに対応するものもあり、プロモーション用途では、こうした機能の有無が効いてきます。
なお、大会主催者の立場で複数のチームの試合を撮影するような場合には、そうした運用に不都合がないか(チーム名の表示など)を、あわせて確認しておくと安心です。
チーム外への発信は、すべてのチームに必要なものではありません。まずは記録やチーム内での共有から始め、認知向上やファン獲得に取り組む段階になったときに、あらためて検討すればよいでしょう。
試合中にフィードバックする
もうひとつ、試合後の振り返りではなく、試合が動いているまさにその最中に映像を活かす、という使い方があります。ハーフタイムなど試合中の休憩時に、直前のプレー映像を見ながら選手へ指示を出したい、といったケースです。
この目的では、休憩中にその場で映像を再生できる機能が欠かせません。あわせて、撮影から再生までにどのくらいの遅延があるのか、目的の映像をいかに素早く見せることができるかも、確認しておきたいポイントになります。試合の流れの中でタイムリーに使えてこそ意味のある用途なので、対応できる製品はやや限られてきます。
そのほかの用途
以上のほかに、より専門的な用途として「判定補助」があります。
ひとつは、サッカーのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のように、試合中に映像を判定へ用いるものです。これを実際に運用するかどうかを定めるのは、多くの場合、大会主催者の立場になります。ただし現状では、この用途に耐えるカメラやシステムはほとんどないのが実情で、一般的な導入検討の場面では、まず選択肢に入ってこないものと考えておくとよいでしょう。
もうひとつは、試合後に審判の判定の妥当性を検証する用途です。こちらは試合中の運用と違ってハードルが低く、記録した映像を後から見返すことで、判定を振り返るのに役立つケースがあります。
まとめ
スポーツAIカメラは、「記録」を出発点に、「分析」「ライブ配信」「活用」「試合中のフィードバック」、さらには「判定補助」まで、目的によって求められる機能が変わってきます。
大切なのは、最初からすべてを備えようとしないことです。まずは記録から始め、使いながら「次はこういうことがしたい」と見えてきたときに、その目的に各製品がどこまで応えられるのかを確認していく。この順序で考えていけば、背伸びをせず、かつミスマッチのない製品選びにつながります。
